中目黒での噂話
中目黒の飯屋で、友と夜食をとっていると、
芸能関係の大物プロデューサーが入ってきて、
隣のテーブルに着いた。
同じ事務所のスタッフとともに、仕事仲間の方をご案内した様子。
雑なものは出さないが、高級な店でもない。
注文を出して、話が弾みだすと、
すぐ隣の有名人の話は、いやでも耳に入ってくる。
景気の話は、すぐに終わり、
もっと有名人の噂話が飛び出す。
おっちゃんは、向かい合わせた友人と、思わず目が合う。
彼も、耳が吸いつけられたようになっている。
目は、お互いのことを「いやしいね」と言っている。
超ビッグアーティスト(昔は、歌手と言ったんですけど)の方は、
仕事でもプライベートでも、
「ボクを誰だと思っているんだ。」と怒鳴る、と
大物プロデューサーが切り出した。
気の小さいおっちゃんは、それだけでドキドキした。
毎日のようにだよ、
もちろん、冗談じゃなくてだよ、
「信じられる!」と強調した。
同じ事務所のスタッフらしい人以外は、
「いやあ、イメージと合わないな」と答えた。
そうでしょ、と受けて、
「信じられないよね。」と、
大物プロデューサーは、繰り返した。
もっと、びっくりするエピソードも飛び出した。
ああ、おっちゃんは、気がとられて消化できなくなった。
ひとつ、エピソードが出るたびに、
また戻って、「信じられる?」を繰り返した。
そりゃ、信じられるわけはない。
イメージが合う、合わないの問題ではない。
「ボクを誰だと思っているんだ。」
そんな権力むき出しの表現はしない。
いくらなんでも、口癖にはしない。
けれど、プロデューサーが、
「信じられないでしょ!」を、何度も繰り返すので、
その繰り返すことの方が、おっちゃんには気になりだした。
一度言えば、わかる。
なぜ、なんども、繰り返すのか、が疑問になった。
そこで、ハタと気づいた。
同じほどの権威、権力があっても、
「俺は、そうじゃないよ」と伝えたいのではないか。
誰か、そこをついてあげてよ、
隣のスタッフの方、何度も聞いた話かもわからないが、
「いやあ、わたしは、○○さんの下でよかった。」と、
そう言ってあげれば、プロデューサーは、きっと満足されるのに。
そうしなきゃ、振り上げた拳じゃないけれど、
噂話の落とし所がなくなるよ、
今度は、プロデューサーが、みじめな気持になるよ、と
またまた、気になって、
いつしか、向かいの友との会話はなくなっていた。
アホなんは、こっちか。




