「ザ・ムーン」
月の裏側まで行って、わかったこと、わからなかったこと。
この映画は、1969年から72年まで続いた"アポロ計画"に参加し、
月まで到達した12人の宇宙飛行士のうち10人の証言によって構成されている。
といわれ、思わず土曜日のレイトショーを観に梅田へ出かけた。
木枯らし吹きすさぶ1月の土曜の夜9時半、あたたかな家庭に見放され、
彼女には縁がなく、ひとりぼっちでおやじが観るにはザ・ムーンはぴったりな映画だ。
なぜなら僕はアポロ11号の月面着陸を、10歳の頃ライブで体験したはずなのに、
まるで夢の中の出来事のようにしか記憶していない。
だから僕らの世代にとってこの映画は、
若い頃の母さんの乳首がどんな色だったかを教えてくれるほど偉大な価値がある。
800人収容の大劇場に観客は50人ぐらいだった。
僕と志を同じくするおやじの静かな熱気が感じられればそれで十分だ。
ところが銀幕に映像が流れだしてもテンションが上がっていかない。
どこか様子がおかしい。おもしろいか、といわれればおもしろいのだが、
「NASA秘蔵の蔵出し映像」とか「パイロットたちの生々しい証言」がでてきても、
これっていつか見たよな? どこかで聞いたことない?
そんな疑問がつぎつぎと浮かんできて映画にのめり込めない。
これでは映画ランク「6点」しかあげられないではないか。
そのうちに、この映画の美点をみつけた。
アポロ11号で月の上空まで行ったのに着陸できなかったコリンズ飛行士のファンになった。
この人のキャラがいい。人間味があって楽しい。
飛行士たちの多くは「突然、漆黒の闇が晴れたかと思うと、
太陽の光を浴びた月が眼前に輪郭を現した時の感動は忘れられない」と
高尚なコメントをするのだが、コリンズ飛行士は司令船のなかに残されたときの心境を
「ひとりぼっちだけど、孤独じゃなかった」なんて青臭くいう。
「青くてきれいな地球が、すぐこわれてしまいそうで恐かった」なんていう。
月から見ると、真っ暗の宇宙に白と茶色とブルーでできた地球が浮かんでいる。
そこだけに色があって、それ以外には色がない。
なぜそんなところに、きれいなものが浮かんでいるんだ?
なぜそんなところに、僕らの住んでいる惑星はあるんだ?
話に引き込まれて、ぼくもいつのまにかコリンズ飛行士と同じ気持ちになって
月の上空に浮かんでいた。
もっともこの映画の最大のヒーローはアポロ11号で月面に降り立ち
「これは一人の男にとってはただの一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」
という有名な台詞を残した伝説のパイロット、ニール・アームストロングだ。
ところが現在の彼の姿も声も映画にはいっさい登場しない。
どんな困難に直面しても顔色ひとつ変えないといわれたニヒルな美男子が、
いまどんな風貌になったのか知る手立てがないのである。
家へ帰ってから調べると、
ニール・アームストロングはいま故郷のオハイオで世捨て人のような生活を営んでいるという。
なんてこった。それを早く教えてくれよと腹が立ってしまった。
こうなったらスティーブンソダーバークあたりに
「アポロ計画最大の功労者でありスターの今」という
ニール・アームストロングのドキュメント映画を撮ってもらいたい。
アポロが月面に降りたとき10歳だったおっさんの偽らざる願いである。
筆者:「きそら」さん(ゲスト)





