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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年2月06日

「伝記」サンプル

筆者:いぬ愚かに、踊り続ける。

劇団サンプルの「伝記」を観た。
シェルター会社「浅倉シェルター」社長、浅倉史郎。
その死後、偉大だった父親の「伝記」を作ろうとする息子・健。
伝記を巡るドラマは、
僕にとっては「歴史」と「人間」の関係を考えさせるものとなった。

伝記に名を残そうとあがく者たちがいる。
社長の愛人と、その息子。
「正史」の側からすれば、彼らを認めるわけにはいかない。
なんとかして彼らの存在を無かったものにしようとする。
無視をするな、俺たちを認めろ。
彼らは必死に、「正史」を握る者に詰め寄る。

伝記を、外から眺めようとする者たちがいる。
浅倉健の下で伝記の編纂にあたる3人の社員。
客観的に歴史を残そうと、取材し、観察し、写真を撮り続ける。
しかし、客観的に歴史を見つめ続けることなんてできない。
「見る者」はいつしか「見られる者」に変わる。
見られた者は、自分の歴史を語り出す。

「伝記」に語られるかどうか。「歴史」に名が残るかどうか、
そのことだけを巡って、何人もの人間が争いあう。
そんな中、社長の伝記を作ろうとしている息子だけが、
おろおろしながらも他人事のような顔で、騒動を眺めていた。
しかし彼は、ある瞬間、その立場を捨てる。

  「私が主役になります。
  物語の主役は私です。いや、私たち、あなたたちです。
  私たちは続きなんです。だから何をやってもいいんです。」

  「茶番です。なぜそれがいけない?
  私が父を追い越すことはない。才能もなければ人望もない。
  実績もなければ未来もない。そんな私にできることは茶番です。
  茶番でも何でもやって物語を書き換えればいいんです。
  それが歴史になるんです。さあ、伝記を作りましょう!」

そう息子が宣言したところで、
彼とその妹との「秘密」が明らかになる。
他者の歴史をながめ、編集する立場から、
自分の歴史を作り、自分が他者から見つめられる立場になる。
そう、彼もまた「歴史」になった。

歴史とは、名もない、才能もない、人望もない者たちが、
愚かに踊り続ける、その集積だ。

 

紹介演劇データ

  • タイトル:「伝記」
  • 劇団:サンプル
  • 作・演出:松井周
  • 公演日:2009年1月
  • 劇場:こまばアゴラ劇場(駒場東大前)