『累犯障害者』 山本 譲司
障害者を「刑務所」に追い詰める社会。
著者・山本譲司さんは、衆議院議員だった2000年に
「政策秘書給与の流用事件」に問われ、翌年、実刑判決を受ける。
433日に及んだ獄中で、知的障害者を世話する任務につく。
『障害者白書』(内閣府発行・平成一八年版)によると、
日本全国の障害者数は、約六五五万六〇〇〇人になる。内訳は、
聴覚障害者・約三四万六〇〇〇人、
視覚障害者・約三〇万一〇〇〇人、
精神障害者・約二五八万四〇〇〇人、
知的障害者・約四五万九〇〇〇人。
「しかし、この知的障害者の総数は、非常に疑わしい。」と著者は言う。
人類における知的障害者の出生率は、全体の二%から三%といわれている。
だが、四五万九〇〇〇人だと、我が国総人口の〇.三六%にしかならない。
欧米各国では、それぞれの国の知的障害者の数は、
国民全体の二%から二.五%と報告されているのだ。
知的障害者は、日本全国に二四〇万人から三六〇万人いてもおかしくない。
「〇.三六%」というのは、正しくは、障害者手帳所持者の数なのである。
「二%ほど」の障害者が、福祉の手が一切差し伸べられず、
日本の脆いセーフティーネットからこぼれ落ちている。
法務省が毎年発行している『矯正統計年報』に、
「新受刑者の知能指数」という項目がある。
最新の統計結果、二〇〇四年の数字で例示すると、
新受刑者総数三万二0九0名のうち
七一七二名(全体の約二二%)が知能指数六九%以下の受刑者
ということになる。測定不能者も一六八七名おり、これを加えると、
実に三割弱の受刑者が知的障害者として認定されるレベルの人たちなのだ。
日本の人口比で言えば、「〇.三六%」しかいない知的障害者が、
受刑者の「三割弱」になる、と言う。
知的障害者は、そんなに悪事を働く人が多いのか、との疑問がわく。
しかし、現実は、福祉の粗い網にかからず、生きる術を獲得できないためだ。
救いの手があることも知らない人が多い。
生活に困窮し、「600円」の窃盗や無銭飲食で捕まり、裁判にかかる。
身元を引き受ける人がいないケースも多く、執行猶予もつかない。
また、娑婆の暮らしよりも、刑務所の人生を望む人も少なくない。
「おいお前、ちゃんとみんなの言うことをきかないと、
そのうち、刑務所にぶち込まれるぞ」
そう言われた障害者が、真剣な表情で答える。
「俺、刑務所なんて絶対に嫌だ。この施設に置いといてくれ」
悲しいかな、これは刑務所内における受刑者同士の会話である。
著者は訴える。
「刑務所は、行き場を失った障害者たちを保護する施設」ともいえるのではないか。
たとえ、望まなくても、満期になって刑務所を出ても、
障害者を食い物にする輩が待ち構えている。
売春をさせるために、薬漬けにするヤクザ、
障害者年金や生活保護費を搾取するために養子縁組するもの、
素直さを買われて、ヤクザの鉄砲玉にされるもの、
騙されたり、悪の道に引きずり込まれたりする。
ときには、障害者を食い物にする障害者もいる。
運よく、福祉の助けを借りて、
ヒモと手を切り、売春とも縁を切り、福祉作業所で更生に努める女性は言う。
「でも、いまのあたしって本当に人間なの?」
障害者にとって、健常者が用意する世界は、
「刑務所」や「ヒモの食い物になる」より、辛く味気ないこともある。
日本の福祉は遅れている。
でも、一歩でも二歩でも前進させるために、山本譲司さんは奔走している。
障害者の社会での障害を取り除くことで、自分自身も再生させようとしている。
だから、とても辛い話だが、読後は苦くない。





