ギャルゲーのために、フォントを作った男 vol.5
マンガ感覚のゲームだから、フキダシ感覚のフォントで
「TOKYOナンパストリート」のゲーム画面は、ちょっと変わっている。画面右端にはコマンド表示欄。「話す」「どこかに誘う」「キスをする」など、置かれたシチュエーション毎に主人公の取れる行動が表示され、プレイヤーはその中から選択していく。
その左隣には街、レストラン、喫茶店など自分のいる場所を示すウィンドウ、さらにゲーム内の現在時刻、所持金、経験値など各種パラメータを表示するウィンドウがあり、女の子の表情やシチュエーションが表示されるイラストウィンドウは、それら情報表示ウィンドウに圧迫されるように、画面の4分の1ほどの大きさで置かれている。「美少女ゲーム」として考えるなら、イラスト表示ウィンドウがこれほど小さいことは考えにくい。
画面下のテキスト表示スペースには、最大5行のテキストを表示することのできる大きさがとられている。結果的に「TOKYOナンパストリート」は、1画面にたくさんの要素と情報を詰め込んだ、バラエティに富んだデザインのゲーム画面になった。雑誌に例えるなら、「家庭画報」などのグラビア誌ではなく「HANAKO」などの情報誌に近い作りだ。
関野さんはこれだけの情報を詰め込むために、画面デザインの調整を繰り返したという。
「ギリギリのバランスだよね。テキストのエリア、パラメータのエリア、それぞれのエリアはこれ以上広げるとゲーム画面が小さくなり過ぎちゃう。そのギリギリのところを考えて作ったんだ」
その結果「TOKYOナンパストリート」が手に入れたのは、自作のひらがなフォント「関野フォント」を使ったテキストを5行表示できる、当時のアドベンチャーゲームとしては広大なテキスト表示スペースだ。
「当時のことを思い出すと、これ多分、"一往復"のつもりで作ったんだよね。コミュニケーションの一往復。一つの会話と、次の会話を予感させるための一行。一つのセリフは、最長でも2行で収まる。それが、こっちが話して、向こうが応えて、の往復分で4行。それに1行足して、5行分」
もちろん、5行も表示させなくても、一行表示しては消し、また次のテキストを表示させる、というやり方もある。モニタの大きさに限界がある以上、イラストをできるだけ大きく表示させたいなら、そういうやり方をとるのが普通だ。でも関野さんは、イラストの大きさよりも、一度に表示できるテキストの量を増やす方向性をとった。
それは関野さんが「マンガ」の発想を持っていたことが大きい。早稲田大学の漫画研究会出身で、当時はゲーム制作者の他に漫画原作者としての顔を持っていた関野さんにとって、マンガを読ませるように、ゲームをプレーさせることは、むしろ自然であり、必然だった。
「マンガってさ、イラストも、セリフも、全部の情報が一つの見開きに全部載ってる。だからゲームでも、マンガみたいに自分のセリフもあのコのセリフも全部1画面で見たい、見せたい。マンガだよね。マンガの吹き出し感覚」
マンガの中の文字は、記号であると同時にビジュアルでもある。甘えたセリフは丸い文字で、あるいは怒っているセリフはとがった文字で。表現したい感情や雰囲気によってフキダシの中のフォントを変えることは、今でも当たり前に行われている。
「TOKYOナンパストリート」で関野さんが、女の子とのライトな会話の雰囲気を伝えるために丸文字ベースのライトな書体を自分で作り上げようとしたことは「マンガのようにゲームを読ませたい」と願う関野さんにとっては、どうしても必要なことだったのだ。




