ギャルゲーのために、フォントを作った男 vol.6
文字だけじゃない。「におい」は、記号でも伝わる
「マンガのようにゲームを読ませる」という関野さんのこだわりによって「TOKYOナンパストリート」は、テキスト表現上、2つの特色を持つこととなる。
1つはカタカナとひらがなの混用だ。
当時のパソコンゲームは、カタカナしか使っていないものが一般的だった。関野さんは「関野フォント」でカタカナとひらがな、両方を手にすることができるようになった。両者の混用によって、ゲームに新しいテキストの表現方法が生まれた。
たとえば「学校に行く」という文を表記する場合、カタカナしか使えないとすれば表記は「ガッコウニイク」となる。これでは文節の区切れが分からず、意味が伝わりづらいため、文節の区切りで一文字空けて「ガッコウニ イク」、あるいは「ガッコウ ニ イク」とするのが、当時の表記方法だった。
これが「TOKYOナンパストリート」では、「ガッコウいく」となる。カタカナとひらがなを混用することによって、2つの効果が生まれる。一つはカタカナ表記の「ガッコウ」とひらがな表記の「いく」によって文節がはっきりと区別できるため、以前のようにスペースを空ける必要がないこと。セリフにスピード感が生まれる。もう一つは、文節の区別がしっかりつけられるため、助詞を省略できる、ということだ。関野さんはこう語る。
「基本的にはマンガの技術だよね。ひらがなのまま表記していくと、文節が区別できなくなってきちゃう。かといってスペースを空けるのはイヤだった。もったいなかったし、好きじゃなかったんだよね。なるべくはしょって。はしょっても読みにくくならないように。たとえば『ガッコウいくのキライ』とかね」
もう一つ指摘しておきたいのが、記号だ。「TOKYOナンパストリート」では、テキスト中、特に女の子のセリフの語尾にハートマークや「~(ニョロ)」などの記号がしばしば使われる。会話を楽しみながらナンパを成功させていく、というゲームの目的から考えれば、女の子がどんな感情を抱いているかは重要だ。女の子のセリフにちりばめられた記号は、語る「内容」とは別に、そのセリフが「どう」語られているのか、つまり会話の「におい」を伝えるカギとなる。
今でこそケータイメールでのやり取りにニュアンスを加えるため「絵文字・顔文字」を使うことは普通だが、そうした文化のなかった当時、会話に「におい」をつけたいとこうした工夫がなされていたことは、やはり驚くべきことだろう。なんと関野さんは、当時のフォントセットには含まれていなかった「...(三点リーダー)」も作ってしまったのだという。
「点一個で『・』じゃ物足りないし、かといって半角にして3つつなげるのもカッコ悪いし。まだメモリには余裕があるし、じゃあ作っちゃえ、と...。楽しかったんだよね、この頃。あと何バイトある、何文字分空いてる、とか。じゃあコレも入れよっか、とかさ。楽しかった、若いときで」
関野さんが編み出したこれら表現上の工夫は、ファミコンも含めその後のゲームにおける文章表現の一つのベースになっている。もちろん全てが関野さんの影響下にあった、というつもりはない。その根底には「マンガ」的なものの影響があり、その影響のもと、ゲーム作りの現場で同時多発的に同じような考え方が生まれてきたのかも知れない。
ただ言えるのは、「モニター上の文字表現」という本シリーズのテーマにとって、ゲームというメディアは重要であるということ、そして「関野フォント」と「TOKYOナンパストリート」には、ある時期のゲームにおける文字の読みやすさを考える上で重要な示唆が含まれている、ということだ。




